財務省出身者は「追加緩和」というと顔がひきつる
最近、強く感じる「激しいギャップ」があります。
マーケット(株式市場参加者)が「追加緩和」を熱望するのに対し、
霞ヶ関は決して「追加緩和」を歓迎していないことです。
経済記事で「追加緩和に期待」という言葉をみるたびに、
気持ちはわかるとともに、違和感も感じます。
もちろん、ある程度、株価が維持されないと、
10%への消費増税はできませんから、
日本株が強烈に売り込まれたり、
その懸念があれば黒田総裁は追加緩和をやるでしょう。
ただ、永田町や霞ヶ関では、
「今の日経平均は14000円『も』ある」
という空気が支配的になってきたことは前にも述べたとおり。
ここから13000円を割る水準まで売り込まれることとなっても、
GPIFを出動させれば簡単に2000円や3000円上がる楽観視されており、
この水準で「追加緩和期待」が出てくる雰囲気ではないのです。
この国の実質的な「主権者」は、
財務省を頂点とする官僚組織ですが、
彼らにとって一番のプライオリティははっきりしています。
1.統治機構の維持
2.企業の収益力(つまり担税能力)
3.国民の生活水準
この順です。
これはまあ、合理的な判断です。
1がなければ2はあり得ず、
2がなければ3はないのに対して、
その逆は絶対にないからです。
これを考えれば、
「追加緩和」を霞ヶ関が歓迎するかどうかは明らかです。
白川総裁時代の末期には、
なんでもかんでも「日銀が悪い」という猛バッシングになりましたが、
政府・役人にとっての1番の優先順位は、
1の「統治機構」の強固さに直結する「通貨の信認」の維持であり、
通貨価値を毀損してまで景気浮揚をはかる「異次元緩和」は、
本来、そのDNAと相容れないものでした。
実際、「異次元緩和」の開始後、
国債金利が急騰(国債価格は急落)したことで、
財務省を中心に凄まじい戦慄が走りました。
考えてもみてください。
株価が半減して7000円や8000円になっても国は存続しますが、
国債価格が半減したら国家の統治機構は崩壊します。
霞ヶ関としては総力を挙げて防ぐべき最悪のシナリオですし、
もしそうなったら、企業経営や国民生活どころの話ではなくなります。
「追加緩和」をやるということは、
また、ふたたびあの恐怖がよみがえることです。
財務省をはじめ、霞ヶ関全体は顔がひきつるような話です。
実際に追加緩和が行われた場合を想定してみましょう。
黒田総裁が「戦力の逐次投入はない」と約束した
「一回限り」のはずの「異次元緩和」が、
今後、政治や市場の要望に応じて何度でも行われるとなれば、
日銀のバランスシートの未来予測はどうなるでしょうか?
マネタリーバランスを倍増させ270兆円にしても足りないならば、
次は370兆円でしょうか?500兆円でしょうか?
黒田総裁の後任総裁にもまた、
「緩和圧力」がかかり続け、
2回目、3回目、4回目の「追加緩和」が実施されれば、
5年後、10年後の日銀のバランスシートは、
500兆円、1000兆円に膨らむという想定も出てくるでしょう。
ドル円は150円、200円となるかもしれませんが、
今度は強烈な輸入インフレで景気は圧迫され、
税収も大幅に低減します。
しかも、通貨価値がそこまで毀損すれば、
国債金利も急騰するでしょうが、
金利1%の上昇で約10兆円の歳出増なのです。
この時点で、日本国はデフォルト。アウトです。
この議論は、反リフレ派の方々がかねがね指摘していることですが、
それが実現しかねないことを霞ヶ関は何より心配しているのです。
「一回限り」と約束したはずの緩和措置が、
今後は恒常的に行われる見通しとなり、
通貨と国債の信認に傷がついた瞬間から、
上記の「悪魔のシナリオ」を次のイベントにすべく、
ヘッジファンドはまた売り浴びせのタイミングをはかってくるでしょう。
これまで政府は、ゆうちょやかんぽを国債の防衛に出動させ、
その都度、ヘッジファンドを撃退してきましたが、
「頼みの綱」の個人資産1400兆円の大部分が、
金融機関によって国債に置き換わりつつある今、
次の売り浴びせに対抗する手段はもうほとんどないのです。
だからこそ、
財務省出身者は「追加緩和」と聞けば顔がひきつるのですが、
黒田総裁はそういう恐怖を前に、
政治と市場からの強烈な圧力を受けつつ、
追加緩和をやるかやらないか、
やるならばいつか、
やったとしてもどう「今回限り」を保証するかを考えているはずです。
この点を指摘した経済記事はあまりありませんし、
相場関係者も無邪気に「追加緩和をやれ」の一辺倒です。
もちろん、追加緩和を「待ち望む」のも「喜ぶ」のも自由ですが、
一時的に株価が上がって快哉を叫ぶのもつかの間、
今度は「日本経済全体の大崩落」という、
超特大級のグローバル・イベントの影がちらつき始めるということは、
アタマに入れておきたいところです。
相場は上に行っても、下に行っても儲かるとはいえ、
統治機構が壊れ、日本国民が稼ぐ手段を失いかねないシナリオを、
投資家として素直に喜べるかどうか。
安倍政権が与党内の抵抗を押し切り、
「第3の矢」で思い切った規制改革を進めていたら、
そもそも追加緩和だのGPIF出動だのという
「弥縫策」(その場しのぎ)で株価を維持する必要もなかったのにと、
このブログではちょっと珍しくぼやいてみました。
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